10月末のおもと展示会で、ある有名なおもと趣味者のお話をお聞きする機会がありました。「佐藤さん、今年は今日で3冠のおもとがそろったから、もう棚入れは十分。あとは心穏やかに展示会を鑑賞できるよ。」とおっしゃっていました。その3冠とは......?
1:楼蘭
やはりというべきか、そこに行きますかというべきか。既にお持ちの1本だけでは物足りないということの様です。そういえば、以前その方に楼蘭だけで一枠5鉢持ってみたらと勧められたことがありました。下手な実生(失礼!)を持つより大名品の覆輪を、ということかもしれません。他のベテラン趣味者のお棚にも楼蘭が複数あるという話も聞こえてきます。殖えてくるのを気長に待っていると棚入れせずにお迎えが来てしまうかもしれません。
「いつ買うの?今でしょう!」
逆に楼蘭を殖やして気前良く手放せる方は、次の棚入れを有利に進めることができそうです。
2:文晁
新登録後、展示されることもほとんどなく、殖やせ殖やせが続いているおもと。
かのベテラン趣味者にもようやくお棚入れとなりました。評価が強すぎると感じた時には、無理せず縁があるまで辛抱することが大切だということを教えていただきました。東京支部展の時に関東の隠れた名作者の文晁の写真を見せていただく機会がありました。新登録の時のイメージと異なり、幅広の歯を多数重ねていました。
「文晁、侮りがたし...!」
3:祇王
故安達氏の棚じまいの時に3本だった祇王も少しずつ殖えてきている様です。
今回、東京の殖え木を取引する場に居合わせただけでも幸運でした。安達氏以外には東京のm氏やt氏が何度か展示会に出品していますが、いずれも超堅作りで一般の趣味者には良さが理解されていません。長野のs園が「もうちょっと作をかけて幅広の葉を出さないと、モノの良さが出ないよね。」と言っておりました。
今回棚入れをされた先輩なら大丈夫。きっと、祇王の見本木を作ってくれるでしょうから。
次は、私にとっての今年の3冠について述べたいと思います。例年通りの芋吹きを作り、50本ほどは業者の方に引き取っていただきました。その交代用員として数本の芋吹きをいただき、自前の殖え木で残したもの、別荘からの里帰りなどを含めて、30本ほどが新しい培養に備えて春を待っています。けれども、
私にとっての3冠とは、それらのことではありません。
1:谷風覆輪
新登録をさせていただいてから、覆輪の木のみを残して慎重に培養し、ようやく殖え木をコンスタントに出せるようになりました。東京、長野の両s園にも義理を果たせましたので、今年は別の業者の方にお譲りしました。今年は長野の名作者mさんの所で美術品ができています。これを展示会に出品して頂けると、今後は覆輪の谷風を所望される方も増え、今年の殖え木も良い縁談が舞い込むと良いなあと思っています。丸止、柚子肌、総雅糸龍の羅紗獅子。上作できると人気の太陽が獅子になったように見えるでしょう。
2:大丸実生
三河の実生で、頭木1本ものを東京s園より棚入れした木です。仮称の由来は、見染めた場所が東京のデパートでの展示即売会だったことによるものです。
2本芋吹きを取ったところで親木は平野さんにお譲りすることになりました。(昇天したという意味です。)
1本を自宅で、もう1本を別荘で培養してもらうことにしました。
自宅の木は春に芋を切り、別荘の木を見本木にという算段をしました。ところが、今年に限って別荘の作が良くありません。しまったと思いつつも、自宅の頭木を何とか見られる形にして、今年の芋吹き2本とともに東京のs園に持ち込みました。慎重に事を進めるs園は、別荘の木も実物を見たうえで商うことにしました。幸い、「良い木だ。」という評価を得て、2本の木の輿入れ先がまとまりました。なんと、日本一と言われる埼玉のsさんと、東京の有名人風天の(?)kさんに培養して頂けるようになったそうです。おもと冥利に尽きる大丸実生、s園よりサンゲンという仮称ではどうかと言われました。「三玄」という意味だったようですが、この名称の実生は別にあるため、名前は宙に浮いた状態です。個人的には「三弦」もいいなとひそかに思っています。
3:神奈川のkさん
彼も私も、子供の頃よりの植物好き。おまけに「軽く行きましょう。」と声を掛け合いながらもいつも午前様の酔っぱらい。おもとについて語らせると、ついていける人間は日本中を探しても数えるほど。運命の出会いをしてしまった二人はまさに「藁灰の友」。
ただし、好みのおもとは重なる部分が少なかったように今まで思っていました。
なにしろ、「胸の大きい女はバカだ。」(私に聞き間違えだったらごめんなさい!)という考えをおもとにも適用しているように思えたからです。好みのおもとは、細葉、姿と地合が良いを主体としていたからです。
そんな彼が、今年の東京支部おもと名品展において本領発揮。雛壇3点、安達賞2点の快挙。希少品種の『鯱』を除く4品種は私も培養しているのに、まったく別世界の作品を見せてもらいました。本当におめでとうございます!
忙しい人に仕事を頼むとうまくいくといわれますが、おもと作りも同じのようです。厳しい時代の社長稼業、一服の清涼剤をおもとに見つけての培養、流石です。
悔し紛れに「奥さんの水かけがうまくなりましたね。」というのが精いっぱい。
今後はお互い、藁灰の飲みすぎに注意して長くおもとを楽しみましょうよ。芸は身を助けるそうですが、凝ってしまうとランセットの介錯(首切り)が待っていますから。
(注)藁灰のことを灰汁とも言い、アクと読みます。これは、濁り酒を清酒にする際も使用されました。